今日は、お風呂で起きる心停止の話です。傷病名でいうと、そのまま入浴中の心停止。
この記事は、特定のどなたかの事案の話ではありません。季節に合わせ、毎年くり返し見ている典型的な形を公的資料に沿ってまとめました。救急隊は診断をしません。
起きているのは、家のお風呂です(写真はイメージです)
先に、3つだけ
- お風呂で亡くなる人の多くは、溺れたのではなく病気で亡くなっています
- 9月は、1年でいちばん少ない月です。増えはじめるのは10月から
- だから手を入れるなら、いまが一番ラクです
1. 傷病名——「入浴中の心停止」とは
『救急蘇生法の指針2025』には「お風呂での心停止」という項目があります。こう書かれています。
お風呂での心停止は事故による溺水だけでなく、浴槽内での失神による溺水や病気(急性心筋梗塞や脳卒中など)が原因で起こることもあります。
溺水「だけでなく」。ここが大事なところです。
数字で見ると、もっとはっきりします
東京都監察医務院は東京23区で亡くなった方を調べています。令和4年、入浴中に亡くなった方は1,704件。死因の内訳が公表されています。
- 病死 1,323件
- 溺水 196件
- その他 185件
溺水は全体の1割強。多いのは病死です。
「お風呂で溺れた」と聞くと、湯船に顔がつかって息ができなくなる場面を思い浮かべます。けれど実際に多いのは、先に体のほうで何かが起きて、その結果として湯の中にいた、という順番です。
この集計の範囲も、はっきり書かれています。
入浴中のデータの抽出は、脱衣所、洗い場、湯船に浸かっているいないに関わらず、その行為全般を集計している。
湯船の中だけの話ではありません。服を脱いでいるとき、体を洗っているときも入ります。
脱衣所と洗い場も、この数字に入っています(写真はイメージです)
2. 症状のサイン
この事故のむずかしさは、本人が助けを呼べないことにあります。失神してしまえば、声は出せません。だから家族が見るのは、体の症状ではなく「いつもと違う」という気配です。消費者庁はこう書いています。
「時間が長い」、「音が全くしない」、「突然大きな音がした」など何か異常を感じたらためらわずに声を掛けるようにしましょう。
長い・しない・した。この3つです。
本人が気づけるうちに、できることがひとつ
指針2025には、入っている本人に向けた一文もあります。
体調不良を感じたら、意識を失って溺れないように浴槽から出ましょう。
「のぼせたかな」と思った時点で、もう出る。ふだんから伝えておける言葉です。
本人は、助けを呼べません(写真はイメージです)
3. 避けるには・受診の判断
9月は、1年でいちばん少ない月です
正直に書きます。「秋から増える」とは言えません。
東京都監察医務院の直近5年平均では、入浴中の死亡は月ごとにこうなります。
- 9月 47.8件(1日あたり1.6件) ←年間で最少
- 10月 86.2件
- 12月 212.2件
- 1月 274.2件(1日あたり8.8件)
9月と1月では、1日あたり5倍以上ちがいます。指針2025も「心停止の発生頻度が夏季の10倍以上」になるのは冬季だとしています。
では、なぜいま書くのか。増えはじめるのが10月だからです。9月から10月でおよそ1.8倍。いちばん少ない今月のうちに手を入れておけば、増える時期にはもう終わっています。
何をすればいいのか
指針2025が挙げる対策から、そのまま引きます。
①冬季は脱衣所や浴室をあらかじめ暖めておきましょう。 ②食後すぐや飲酒後、眠気を催す薬を服用した後の入浴は避けましょう。 ③熱いお湯や長時間の入浴を避けてください。肩までつかるのを避け、半身浴とするのもよいでしょう。 ④入浴前や入浴中に喉が渇いたら、こまめに水分を摂りましょう。 ⑤入浴中は周りの人がときおり声をかけましょう。
このうち①だけは、買って置いておく必要があります。脱衣所の暖房は寒くなってからでは売り場から消えます。9月のうちに決めておくのが現実的です。
救急車を呼ぶ線引きは、はっきりしています
消防庁のアプリ「Q助」は、症状を選ぶ前の最初の画面で4つを確認します。そのひとつがこれです。
水没している。沈んでいる。
これを選ぶと、その時点で結果は「いますぐ救急車を呼びましょう」。症状を選ぶ画面に進む前です。迷う段階ではありません。
ひとつ気づいたことがあります。消防庁の冊子『救急車を上手に使いましょう』では、「水におぼれている」が“おとな”と“こども”のページにはあるのに、“高齢者”のページにはありません。高齢者ページの事故欄は「交通事故や転落、転倒で強い衝撃を受けた」の1つだけ。理由は書かれていないので推測はしません。ただ、いちばん亡くなっているのは高齢者です。→119番、迷ったら押していい5つの症状
まず測ってみると、差の大きさが分かります(写真はイメージです)
4. 家族へ
① 声をかけるのは、気づかいではなく安全確認です
指針2025の⑤は「入浴中は周りの人がときおり声をかけましょう」。遠慮するような話ではなく、対策として挙げられているものです。続きもあります。
浴室内の様子が家族に届くような装置があれば、より安心です。
扉を少し開けておく、テレビを消しておく。それだけでも「音が全くしない」に気づけます。
② 見つけたら、引き上げる前に栓を抜く
原文のまま置きます。
入浴中の人が浴槽内で意識をなくしていたら、浴槽のお湯を抜きましょう。
高齢の方を湯から引き上げるのは、家族ひとりでは難しい。けれど栓を抜くのは誰にでもできて、抜けば顔は沈みません。消費者庁も、意識がもうろうとした段階で「気を失う前に湯を抜きましょう」としています。
抜きながら大声で人を呼び、119番へ。順番はそれで十分です。
③ 数字の受け取り方
消費者庁によれば、令和6年に「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」で7,776人が亡くなり、うち65歳以上が7,363人(約95%)。高齢者の交通事故死2,103人の3倍以上です。
交通事故より、家のお風呂のほうが多い。統計上、そうなっています。
入浴の前後に、1杯(写真はイメージです)
「まだ入ってる?」——その一声です(写真はイメージです)

